FISPA便り「クリエーション讃歌」(上)
愛憎、悲喜、希望と絶望、別離と出会い、歓喜と落胆。人間が生きているこの世は、喜びがあれば悲しみもあるのが常です。仏教で言う諸行無常かも知れません。人の感情が織りなす万華鏡ですが、そうした人間社会にあって「クリエーション(創造)」による「いいナア」と思える人の営みは、いつもどこかにあって、人が生きてゆくうえで、勇気と感動を与えてくれます。
日本ファッション協会(馬場彰理事長)が主催する「日本クリエイション大賞」は、そんなクリエーション活動を顕彰する制度です。「ジャンルを問わず、クリエイティブな視野で生活文化の向上に貢献する」人や事象を表彰する同賞の2012年案件は、いずれもこころが揺さぶられるクリエ-ションワークによって実現した感動の物語に満ちています。
大賞に選ばれた「世界で最も美しい書店20」のひとつの「代官山蔦屋書店」。サイバー空間が増えてゆくインターネット社会にあって、文学、人文、クルマ、料理、アート、旅、建築、インテリア、映画、音楽などテーマにそった専門書が小さな空間に連続的に展開されています。ネット社会にあって、失いがちな人と人とのつながり、それこそが人が人である限り必要とする出会いの空間なのだと思います。
大賞のほか、日本クリエイション賞の次の4件も素晴らしいクリエーションワークです。「過去と未来をつなぐ、東京駅の復元」(東京駅)、「片足麻痺でもこげる“魔法の車いす”を製品化((株)TESS)、次代を拓く建築文化を世界に発信し続ける」(くまもとアートポリス)、「桜並木で津波の到達ラインを後世に伝える」(NPO法人桜ライン311)」。
同賞の表彰式は、去る3月11日。あの東日本大震災から丸2年の同日同時刻でした。2年前の授賞式は、開始直前の大震災で中止になりました。今年は、「震災を風化させてはいけない、との思いからあえて3.11に表彰式を設定した」(馬場理事長)ものです。式は黙祷から始まりました。
(聖生清重)