FISPA便り「自分を励ますこともできる」

 一喜一憂しても事態が変わるわけではない。「密」を回避して、手洗い、マスク着用などできることを着実に実行することに尽きる。当面は、そうした状況が続くのでしょう。コロナウィルス感染症が再び増勢にある今秋。旅行や買い物など、一時に比べれば、人の流れは増えています。10月の百貨店売上高は前年を上回ったところも出ています。コロナ以前の水準には戻れそうにありませんが、以前の7掛けか8掛けで一進一退を繰り返すのでしょうか。コロナウィルスとの共存時代であることを感じさせます。

 そんなある日、気分転換にと、吉野弘詩集をぱらぱらとめくっていたら、こんな詩に出合いました。「自分自身に」と題した詩です。「他人を励ますことはできても/自分を励ますことは難しい/だから―というべきか/しかし―というべきか/自分がまだひらく花だと/思える間はそう思うがいい/すこしの気恥ずかしさに耐え/すこしの無理をしてでも/淡い賑やかさのなかに/自分を遊ばせておくがいい」

 そうか、そうだ、と思いました。特に、冒頭の「他人を励ますことはできても自分を励ますことは難しい」とのくだりです。わが身に置き換えて考えてみると、そこには納得してうなずく自分がいました。確かに、他人を励ますことは、それが言葉の上だけでもできます。しかし、自分を励ますことは、よくよく考えると、確かに難しい。

 コロナ禍で多くの人が苦しんでいることでしょう。経営が脅かされ、廃業の危機に直面し、仕事が激減し、失業を余儀なくされた方もいます。コロナ倒産やコロナ失業7万人との報道もありました。

 苦境にある経営者、幹部、社員などなど、そうした方々をどう励ましたらよいのでしょう。そして自分をどう励ましたらよいのでしょう。そんな思いにとらわれていた時、ふと繊維ファッションSCM推進協議会のFISPAニュースの記事を思い出しました。やや旧聞かも知れませんが、去る8月21日配信の「下請けGメンヒアリングで把握した優良事例」は励ましの実例を教えているように思えました。

 「海外生産品の輸入遅れで納品が遅れたが罰則はなかった」、「中止になった展示会用の商品について、加工済みの分は買取してもらっている」というのがその内容です。

コロナは原糸から小売りまでのSC(サプライチェーン)のすべてに悪影響を及ぼしています。しかし、だれもが苦境にある中で自社の隣の取引先に配慮する。すばらしい「他人への励まし」です。そして、自分ですが、「他人への励まし」は、やがて「自分への励まし」になって還ってくるのではないでしょうか。

                               (聖生清重)