FISPA便り「コロナ禍を奇禍として産地企業の自立を」

  コロナウイルス感染が終息せず、コロナとの共存が当たり前になった現代。コロナ後を見据えた新たな潮流も出ています。「都心から地方へ」の人の移動もそのひとつでしょう。感染防止のために導入したリモートワーク。オンライン〇〇という手法。例えば、繊維ファッション業界の主要団体のHPをチェックしてみると、予想以上にリモートワークやオンラインセミナーが定着しているように思えます。

  東京への一極集中の功罪は多くの識者が論じていますが、一般市民目線で見ても、例えば、朝晩の通勤電車の混雑ぶり、渋谷のスクランブル交差点の人の波を見れば集中が明らかで、過剰と言うべきでしょう。大地震など自然災害の備えでも機能の東京集中にはリスクがあります。首都機能の適度な分散は国のリスク管理上、重要との指摘はその通りでしょう。「地方創生」が叫ばれていますが、それは東京一極集中の裏返しでもあります。

 そうした長年の課題がコロナによって、解決に向かうのでしょうか。職種によって違いがありそうですが、基本はリモートワークで、週に1、2回オフィスに足を運ぶといった働き方が増えるように思えます。その結果、東京一極集中がそこそこ緩和される日がくるような気がします。

 繊維ファッション産業に関して言えば、この流れをうまく引き寄せてもらいたいと思います。地方に散在する繊維産地企業が「都心から地方へ」の人の流れをうまく活用する。そのためにもかねての課題である自立化(脱・下請け、賃加工)に挑戦する。コロナによるアパレル需要の減少で打撃を受けていると思われる産地企業ですが、身を縮めて需要の回復を待つだけではなく、自ら企画・生産し、販路を開拓する。自社ブランドの最終製品でD2C(工場直販)などの手法で自立を目指していただきたいと思います。

 地方には豊かな住環境(自然、住宅)があります。ネットを活用すれば、自社製品の販売も情報収集もできます。リモートワークの良さを知った人が移住し、地元の企業の自立の戦力として活躍する。企画やデザイン、Eコマースなどプロフェッショナル人材と地域資源を持ちながらも活用しきれていないと思われる産地企業の出会いと協力が描く姿は、2000年代初めに経産省の支援を受けて全国の産地企業が挑んだ自立化事業の再現とも言えるのではないでしょうか。

夢のような話かも知れませんが、コロナ禍が歴史的な現実だとしたら、今は歴史的な転換期でしょう。コロナ禍を奇禍として繊維産地企業には自立に向けての努力を期待したいと思います。              

(聖生清重)