FISPA便り「東京の転出超過と地方創生」
自宅での生活時間が増えて、テレビを見る時間が増えた方も多いのではないでしょうか。テレビの夜の番組で気になるのはテレビ朝日が毎週、日曜日の午後8時から放送している“ポツンと一軒家”。取材班が衛星写真で発見した山中の一軒家を訪ね、そこで生活している人にインタビューする番組です。高齢の一人暮らしの方も少なくありません。その番組の視聴率が高いそうです。
人が集まって生活している都会や街、あるいは集落からも遠く離れた「陸の孤島」のような「普通でない生活環境」での生活は、不便極まりないでしょう。そんな辺境で、たった一人で生活する。どんな家に住み、食料をどのようにして調達して何を食べ、何を燃料にして、それよりも、何を生きがいにしているのだろう。その人はどんな人なのだろう。確かに、興味をそそられます。
そうしたTV番組と関連があるわけではありませんが、人がどこに住むか、ということに関して興味深い動きがあります。最近の報道によると、東京都の転出者が昨年7月から6カ月連続で転入者を超過したとのことです。東京から埼玉、神奈川、千葉の近隣3県への転出の傾向が顕著だそうです。東京の「密」を避けて、自宅で仕事するテレワークが増えたことが理由とされています。
一方、人が生活する場所に関して思うことは、以前もこのコラムで触れましたが、地方の繊維産地の中小繊維製造業者の自立事業です。織りや編み、刺繍、染色加工、縫製など、自社技術を生かして自社ブランドの最終製品を企画・生産・販売する。かねて、中小繊維製造業者のあり方として指向されている自立事業です。それこそがかねての日本の課題である地方創生の確かな形ではないでしょうか。
東京都の転出超過は、「ポツンと一軒家」とは別の次元の話であることは言うまでもありませんし、地方に根を張って事業展開する繊維産地の自立事業の動向とも直接的な関連はありません。転出超過もコロナが収まれば、またまた転入超過に転じてしまうことも十分に考えられます。
しかし、そうは言っても、コロナ禍を奇禍として、働き方改革としての地方移住、かねての課題である地方創生につながる中小事業者の自立戦略が進展することを期待したいと思うのです。特に、全国各地の繊維産地の歴史は古く、長い間に培った独自の伝統や文化が地域に息づいているからです。
全国各地で、四季それぞれの豊かな自然に恵まれた環境で、伝統文化を絶やさずに、IT技術を駆使して全国、場合によっては海外市場を相手にした企業活動を継続的に展開し、地方創生を実現する。東京の転出超過のニュース報道から連想した思いです。
(聖生清重)