FISPA便り「環境省、衣服の適量生産・適量消費を」
地球環境保全への意識を高め、環境への負荷の小さい適量生産・適量消費への転換を促したい。環境省が初めて行った「ファッションロス(衣服ロス)」の環境への影響の調査結果は、すでに繊維ファッション業界では知られた内容ですが、改めて数字で示されると、その結果は衝撃的です。
調査は、まだ着ることができる衣服などが廃棄されるファッションロスの環境への影響を把握するために実施したもので、政府統計の分析や消費者へのアンケートなどを踏まえて推計した調査結果は次の通りです。
「国内で1年間に供給される衣服は約35億着で、製造から廃棄までの工程で排出される二酸化炭素(CO₂)は9500万トン。これは中小国の1国分の排出量に匹敵する。1着当たりに換算すると約27キログラムで、ペットボトル約270本の製造分に相当する。衣服の輸入浸透率は98%だから、大半は海外で排出されている」
「水環境にも影響を与えている。原材料の綿花栽培などに使われる水消費量は83億立方メートル(1着当たり浴槽11杯分)で、世界の衣服業界全体の9%に当たり、海外の希少な水資源を大量消費している」
「2020年の衣服の年間供給量は81万トンで、家庭や事業所から手放される衣服は、推計で78万トン。手放される衣服の65%に当たる51万トンは廃棄され、古着などのリユースやリサイクルは計35%にとどまっている」
この調査で思い出したことがあります。「あなたのTシャツはどこから来たのか」と題した本です。米国・ジョージタウン大学のピエトラ・リボリ教授が、米国・西テキサスの広大な農場から生産された綿花が海を渡って中国に行き、小さな家族経営の工場で糸からTシャツになり、再び海を渡って米国に戻り、そのうち相当量のTシャツがニューヨークのリサイクル業者に。さらには終着駅のアフリカ・タンザニアの露天市場で売られるまでの「1枚6ドルのTシャツの一生をたどる旅」を実施調査した記録です。
リボリ教授の調査は、衣服の生産地が低賃金を求めて国境を移動する「グローバリゼーションの真実」を明らかにしたものですが、今度の環境省の調査は「衣服の大量廃棄が地球環境に多大な負荷を与えている」ことへの警告です。衣服の一生としては、廃棄の方が不幸なことは言うまでもありません。
最近は、衣服の廃棄につながる過剰供給問題への問題意識が高まり、値引き販売を前提とした従来型のビジネスモデルを改革する企業が増えています。環境省の調査は、過剰供給という積年の課題の早期改善を求めていると受け止めるべきでしょう。
(聖生清重)