FISPA便り「失職の春」

 友人が去る3月末で失職しました。ファッション系の有力専門学校の専任講師だったのですが、突然、「新年度の契約はできない」と告げられたのです。専門学校の経営が楽ではないことは、本来の任務である授業以外に入学者の勧誘業務を要請されていたことなどで分かっていましたが、「まさか自分が解雇されるとは」と暗澹たる思いで現実を受け入れていました。

 くだんの友人は、客観的にみて、ファッションとファッション産業に対する情熱があり、知識、経験、指導力とも申し分ありません。厳しい状況にある卒業生の就職にあたっても、十分な実績を残しています。しかし、そんなベテラン教師も活躍する舞台が狭まっていることを、友人の失職は明確に物語っています。

 以前もこのコラムで取り上げましたが、ファッション系専門学校に学ぶ学生数が激減しているのです。文部科学省の統計によりますと、ファッション系専門学校の学生数は、1977年には8万9000人を数えました。専門学校の学生の3分の1を占め、分野別でトップでした。

 ところが、その後は、減少に次ぐ減少をたどり、2012年は、ピーク時の5分の1以下の1万6000人まで減少しています。全体に占める比率はわずか2.9%にすぎません。

 友人の失職から間もなく、卒業生の就職で定評のある有力専門学校の責任者と親しいもう一人の友人とランチをともにしながら、かれこれ話しました。話題が専門学校に移ったところ、その有力専門学校も今年の入学者は前年を割り込んだことを知りました。

春、4月。若者はもちろん、多くの中高年もそれぞれ、新たな人生行路に踏み出したことでしょう。筆者も出会いと別れの季節である春につきものの歓送迎会に出席し、その際、ついくだんの友人に思いを馳せました。同時に、若者がファッション産業に魅力を感じなくなったことが、ファッション系専門学校生の減少に表れていることに、いささかオーバーな表現かもしれませんが、背筋が寒くなりました。ファッション産業の基盤に危機が忍び寄っている、と。

友人は、奮起して新たな道を歩み始めましたが、胸のつかえがとれない気分のままです。

(聖生 清重)