FISPA便り「中国ブランドの発言に共感」
美しい新緑に包まれ、薫風を全身に浴びて、心地良さを思う存分味わえる季節ですが、新型コロナウイルス感染が拡大し、東京都などへの緊急事態宣言も5月末までの延長が決まるなど、憂鬱な状況が続いています。休業や営業時間の短縮を迫られる商業施設や飲食業、それらの関連業界などの苦衷を思うと「それでも頑張って」とエールを送るしかできないわが身がなさけなくなることもあります。
憂鬱な気分がぬぐえなかった、そんな時「まったく、その通り」と思える、こんな発言を目にしました。
「私たちのブランドの主な顧客は、文化人やアーティストです。彼らはシンプルでありながらも上質な生活への追及に共感を持っています。ですから、われわれのブランドにとって最も重要なことは生地を選ぶこと。その点で、日本には100年の歴史をもつ伝統的な工房で作られた手作りの生地だけでなく、テクノロジーによって開発された新しい素材もあり、上質な生地を作る重要な生産地だと考えています」
2013年に中国南部の広州で創業されたメンズブランド「DAN NONG(タンノン・単農)」のIT部門責任者、季男さんの発言です。実際、素材の5割は日本製で、取引先は約30社にのぼるそうです。北京、上海などで100店舗以上展開しており、昨年は東京・青山に路面店、今年2月には銀座松屋のメンズフロアに出店しました。
この発言に接して「その通り」と共感したのは、現役の繊維ファッション記者だった70年代以降、ずっと、日本の生地(テキスタイル)の良さが特徴のファッションブランドが増えて、日本及び世界の人々の装いに彩りをそえるシーンを思い描いているからです。
日本の生地の良さを生かしたファッションブランドへの期待には理由があります。ひとつは全国にある繊維産地は、縮小傾向にあるとはいえ、その地域の重要な産業であり、地域の歴史と伝統をテキスタイルという生産物で体現していると思うからです。
もう一つは「日本ファッションの世界への発信」です。ファッションは、産業として、特に先進国で重要ですが、同時にファッションを文化ととらえれば、重要度は一段と増すでしょう。グローバル市場で「日本ファッション」が存在感を発揮する際、「メード・イン・ジャパン」のテキスタイルが重要な役割を果たすに違いない、と思い続けています。
コロナ禍でサプライチェーンのすべてが厳しい状況を余儀なくされています。しかし、明けない夜はないでしょう。いずれ暗い夜は明けます。その時、日本の生地が輝くことを願っています。
(聖生清重)