FISPA便り「『正解』の先にあるもの」

 1都3県を中心にした緊急事態宣言は9月末には解除されそうです。長い間、行動が制限された人々は、こぞって、飲食へ、買い物へ、旅行へ、観劇へ、スポーツ観戦へと繰り出すのでしょうか。抑えられていた欲望が解き放たれ、激減していた消費が急速に回復する可能性が高いのではないでしょうか。9月の3連休の人出から想像すると、そうした状況が見えると言うべきでしょう。

 低迷しているアパレル製品などのファッション製品の売り上げも急回復することが予想されます。しかし、それは一時的なもので、基本的には市場規模はコロナ以前の7掛けか8掛けになるとの見方が支配的です。大きくとらえれば、世界情勢は「VUCA」(不安定、不確実、複雑、曖昧の英語の頭文字)と言われています。市場が拡大するとの前提には立てないでしょう。

 だからでしょう。昨今の新聞報道を見ると、アパレル関連企業は小売業も含めて、雑貨や食などに進出する動きが目立ちます。ユナイテッドアローズが原宿本店で酒類の販売を開始したのが好例ですが、アウトドア分野などへの進出の動きも強まっています。

 アパレルを核に生活全般の商品をそろえる戦略は、言わば経営の多角化にほかなりません。新しい日常というウイズコロナ時代では家での時間も長くなることから、アパレルとインテリアや生活雑貨を組み合わせたブランドやショップは確実に増えそうです。ECの強化とともに多くのファッション関連企業が目指す方向になっているようです。

 そんな動向で気になることは、独立研究者の山口周氏の指摘です。山口氏は去る9月14日に行われた繊維ファッションSCM推進協議会の経営トップセミナーで講師を務め、大変好評だったそうです。筆者は参加できませんでしたが、以前、同氏の著書「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」を読んで大事な視点を得ることができた経験があります。

 それは「正解のコモディティ化」との言葉に要約されています。経営学を修めた優秀な人間が科学的に分析して論理的、理性的に導いた結論は、結果、同じものになってしまう、というわけです。「正解」でも、そこに見えるシーンは激烈な競争です。ファッション関連企業のライフスタイル指向がそうならないことを願いますが、果たしてどうなのでしょう。

 くだんのセミナーで山口氏は、新たな著作本を引いてこんな見解を話したそうです。「『モノ』が過剰さゆえに価値を減殺させる一方で『意味』がその希少さゆえに価値を持つのが21世紀という時代だ」。コモディティ化しない「正解」は、『意味』があるか否かにかかっているということですが、『意味』の発見には「世界のエリートはなぜ『美意識』を鍛えるのか」にも書かれている「直観」の力が有効、かつ大事なのではないかと改めて思いました。   

(聖生清重)