FISPA便り「五輪に思う資産と重荷」
寒気が厳しい今冬。開催中の北京冬季五輪の日本選手の登場に、連日、手に汗握っている方も多いのではないでしょうか。ひいきの選手であれば、なおさら、応援にも力が入ることでしょう。五輪は、何と言っても4年に一度、世界中から集まるトップアスリートが最高のパフォーマンスを見せ、メダルを獲得すれば歴史に名を刻むのですから、注目を集めないはずがありません。
その五輪ですが、昨夏の東京2020オリンピックを振り返った一文があります。作家の池澤夏樹さんが昨年8月31日付読売新聞に「五輪を振り返る」と題して「競技を見る行為の意味」を特別寄稿したものです。気になる内容だったので、切り抜いておいたのです。冬季五輪の今、読み返してみると、改めて、池澤さんが指摘している「競技を見る行為の意味」を考えさせられました。
池澤さんは、こう書いています。「勝てば最高、負けても悔いはない、といった試合の先に、長い長い『その後』が待っている。名声は資産であると同時に重荷でもある。これを抱えて人生を渡ってゆくのは実は容易ではない」。
勝利の熱狂が覚め、冷静になってみれば、さもありなん、と思わされるのではないでしょうか。人の気持ちは、とかく、移ろいやすいことは日々の生活でも実感できるでしょう。
「名声は資産であると同時に重荷」との指摘に「メダルを手にしたアスリートも大変だなあ」と、つい感情移入してしまいますが、考えてみれば、企業経営やビジネスの現場でも、「成功体験がその後の重荷」になっているケースが少なくないのではないでしょうか。五輪のような「世界一」を決める競技では、もちろん、ありませんが、日々のビジネス競争の世界でも、成功体験に縛られている、といった話は身近にありそうです。
コロナ禍での厳しい環境が2年以上も続いています。繊維・ファッション
業界も需要が収縮する中で困難を強いられています。しかし、信用情報機関が発表する倒産数は少なく、厳しい環境に適応しながら、コロナ後を見据えているようです。この間、積年の課題である過剰生産、値引き販売を前提としたビジネスモデルからの脱却も徐々に進んでいるように思えます。
過剰生産、値引き販売前提のビジネスモデルは、もとより「名声」ではなく、「成功体験」とも言えないでしょう。五輪の名声にかけるのも無理があると承知しています。しかし、需要収縮という重荷を負いながら、ポストコロナに備えていることは間違いないでしょう。北京五輪をTV観戦し、池澤さんの寄稿を読み直しながらそう思いました。
(聖生清重)