FISPA便り「地方の固有文化の産業化」
経産省が今年1月にまとめた「これからの日本におけるファッション領域を通じた持続的な価値創造を促進する」ことを目指したファッション未来研究会の報告書をネットで読んで、「ラグジュアリーと考えられる要素」の項目に大いに注目しました。「日本の繊維産地の高いポテンシャル」を生かした「新しい産地の形成」につながるのではないか、との期待からです。
報告書の「ラグジュアリーと考えられる要素」は、以下の3点です。①ローカルに伝承される固有な文化等の多様性②個人の創造性や匠の技能に基づく唯一性③人や自然と調和的であるという社会貢献的利他性。ちょっと高尚的のようにも思える表現ですし、抽象的だとの反応もありそうですが、その指摘には同意できるのではないでしょうか。
筆者は現役の繊維・ファッション業界紙の記者だった時、官民が一体となって力を入れていた日本ファッションの海外展開に関連して「日本ファッションとは何か」との問いを繊維・ファッション業界の素材、アパレル、商社や産地の有力企業トップやトップデザイナーに行ったことがあります。「日本ファッションの世界への発信」と言っても、具体的なイメージが湧かなかったからです。
数多くの質問をして、「なるほど」と納得できた答えは、あまりありませんでした。その問い自体に意味がないのかもしれません。しかし、あるデザイナーの答えには「なるほど」と思わされました。それは「その地域のオリジンに敬意をはらったデザイン」との指摘です。
オリジンを辞書で引くと「起源、根源、出所」とあります。世界のファッション情報発信地のパリやミラノ、ニューヨーク、ロンドンに代表されるファッションとは起源を異にしたファッションは、それが日本であれば「日本ファッション」と言えるのではないでしょうか。そして、その創造的なデザインを形にする先端技術、職人技が日本には残っている、いやあると思います。
くだんの報告書は、デジタルファッションなどこれまでになかった、全く新しい世界も描いていますが、長い歴史と伝統のある日本の繊維産地には「固有な文化」も「創造や匠の技能」も「利他の精神」もあるでしょう。その日本の産地から世界市場で評価されるラグジュアリーブランドが生まれることを期待したいと思います。実現の道は険しいでしょうが、そうした壮大なビジョンに向かって、産地にあるポテンシャルをビジネス化して、世界市場に発信する道を是非とも歩んでいただきたいと思っています。
(聖生清重)