FISPA便り「ファッション産業は平和産業」

 ロシアのウクライナへの侵攻に対して世界中から非難の声があがっています。欧州のファッション団体や、ラグジュアリーブランド、大手SPA企業などファッション業界からも、ウクライナの人々に向けた資金援助、避難民への支援、ロシアでの販売停止などが相次いで表明されています。一日も早い停戦、平和の回復を祈るばかりです。

 その一方、北京では冬季パラリンピックが行われています。「平和の祭典」もロシアによって水を差された格好ですが、日本人選手の活躍に胸を高鳴らせながら、障がいを乗り越え、高みを目指す人間の姿に拍手を送りたいと思います。

 そんな中、去る4日には、東京地方でも春一番が吹きました。ようやく、待ち望んだ春の到来です。3月と言えば、多くの人にとって人生の節目の時に当たります。青少年なら卒業・入学、社会人なら入社・定年が、その代表でしょう。下旬には桜が開花しそうです。満開の桜や散りゆく桜に自らをかさねる人も多いのではないでしょうか。

 ロシアの侵攻とパラリンピック。それに対するファッション業界の対応のニュースを前にして思うことは「繊維・ファッション産業は、つまるところ、人々の感性に訴え、人々とともにある平和産業」だということです。繊維ファッションSCM推進協議会の前会長の馬場彰さんは、折に触れて「ファッション産業は平和産業なんだよ」と言っていましたが、今、この時期にその言葉の意味をかみしめています。

 さて、3月です。コロナ禍であっても、人数を絞るなど抑制された形での卒業式や一足早い入社式が行われることでしょう。そうした時、身にまとう服は、まさしく「人々とともにある」ことを改めて感じさせてくれます。「子供の卒業式には、服を新調したい」との母親の声が身近で聞こえます。

 「人々とともにある」産業の担い手はどうなっているのでしょう。信用交換所の倒産統計繊維版によると、2021年の全国繊維業者の倒産(負債額1000万円以上、整理・内整理含む)件数は229件で前年比29・5%も減少して、過去最少でした。負債金額も49・4%減でこちらも過去最少となっています。

 コロナ禍での移動自粛が続き、繊維・ファッション産業を取り巻く環境は厳しいままですが、各社がEC強化や適切な生産・販売に努めていることに加え政府の各種支援もあって、大いに健闘しています。2年以上続くコロナ禍を乗り切ってきた企業が多いことを倒産の少なさが証明していると言えるでしょう。

 厳しいコロナ禍でも生き抜いているプレーヤーたる繊維・ファッション企業。冬季パラリンピックのアスリートにあやかり、多くの人々を「ワクワク・ドキドキ」させてもらいたいものです。

(聖生清重)