FISPA便り「義務と責任の19年」

 繊維ファッションSCM推進協議会の活動の中核を担う経営トップ合同会議が9日、東京・有明の会議場とオンライン参加者をつないだハイブリッド型で行われました。繊維・ファッション業界の素材から小売りまでのリーディング企業53社と来賓の経産省、オブザーバーの各団体関係者の総勢100人が参加した会議の詳細は、同協議会のHPで見ることができます。第22回経営トップ合同会議開催報告 – FISPA|繊維産業流通構造改革推進協議会

 2003年に発足した「経営トップ合同会議」という会議の形式は今回をもって終了することになりましたが、19年の歴史は「義務と責任」をすべての参加者が果たしてきた歴史だったと言えると思います。

 「ささやき、つぶやき」。同会議が発足したころ、繊維・ファッション業界にはこんな言葉が跋扈していました。発注なのかどうか不明で、暗に値引きを強要する。歴史が長く、生産工程が多段階に及ぶ繊維業界の取引は、「暗黒大陸」とも揶揄されていました。「ささやき、つぶやき」は、その前近代的な取引慣行を象徴する言葉でした。基本契約書の概念さえなかった時代です。

 こうした前近代的で不適切な取引を改善しようと立ちあげたのが「経営トップ合同会議」でした。強力なリーダーシップで推進したのが前・繊維ファッションSCM推進協議会会長の馬場彰さんです。その時、筆者は現役の繊維記者でしたが、ある時、馬場さんから「経営トップ合同会議」は、記者諸君の参加を許可しようと思うが、どうか」と聞かれ、驚いたことがあります。

 馬場さんは「マスコミが聞き耳を立てているのだから、会議で決めたことはだれもが守るだろう」と考えていたようです。不退転の決意のなせるわざですが「義務と責任」の実践を公開の場で求めたわけです。「百年河清を俟つ」と言われた取引改善が、基本契約書の締結が当たり前になり、ガイドラインが策定され、歩引き取引の廃止も確実に進展しているのはご承知の通りです。

 経営トップが一堂に会する会議体は終了しますが、業界を取り巻く取引環境は、EC取引の拡大と定着、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展などで新たな取引問題の発生が予想されます。CSR(企業の社会的責任)関連の課題もあります。取引適正化への取り組みは、時代と共に内容が変わり、その都度、対応しなければならないのでしょう。

 繊維ファッションSCM推進協議会は、今後も適正取引を推進する活動を継続する方針ですが、経営トップ合同会議で身につけた「義務と責任」の理念は継続してもらいたいと思います。   

            (聖生清重)