FISPA便り「外野席からの目で見る新年度」
ロシアによるウクライナ侵攻のニュースに心を痛める毎日ですが、今年もまた、桜花の季節がやってきました。そうなると新年度入りです。コロナ禍が続いていますが、多くの企業、学校、各種団体、さらには国や地方自治体も新たな気持ちで新年度を迎えることでしょう。
現役記者の頃は、新年度入りを前に各社トップや事業者団体のリーダーに新年度の方針や意気込みをお聞きするのが常でした。4月1日には多くの会社が新入社員の入社式を開きます。そこでのトップの発言を記事にしていました。コロナ禍でかつての入社式の風景は消えてしまいましたが、それでも何らかの形式で「新たな人財」を迎えることでしょう。
そんな新年度を見通す際、よく引用される「大事な視点」があります。ご存じの方が多いと思います。「鳥の目、虫の目、魚の目」です。物事をより正確に把握する際の視点のことです。大空を飛翔する鳥のように高い位置から俯瞰的に全体を見回す「鳥の目」。複眼の虫のように近づいて様々な角度から物事を見る「虫の目」。そして、魚のように潮の流れ(トレンド)を読む「魚の目」です。
鳥、虫、魚の目のいずれも持ち合わせていない筆者には、3つの目から導く新年度の方向性を探るのは難儀なことなので、第4の目(外野席からの目)で見てみようと思います。「鳥の目」では、サステイナブル(持続可能性)、SDGs(持続可能な開発目標)への対応です。リサイクル素材や天然由来の素材を使用し、生産工程でも水の使用を削減するなどの取り組みは進んでいると思われますが、これらはコストアップにつながるという問題があります。しかし、可能な限り、対応することは「環境の世紀」では必須だと思います。
「虫の目」では、「DtoC」(メーカー直販)の取り組みの進展に注目したいと思っています。産地企業や縫製業の自立(脱下請け)の方策のひとつでもあるDtoCは、ファッションの本質でもある多様性にも貢献するのではないでしょうか。一方、NFT(非代替性トークン)やメタバース(仮想3次元空間)をビジネスにつなげ、新たな収益源にするなどの取り組みはどうでしょう。何かが生まれそうですが、確たる見通しを立てる自信はありません。
「魚の目」です。潮の流れですが、コロナ禍で「イライラ感」がぬぐえない現代においては、心の平安なり、安らぎを感じられるファッションやファッションシーンが待たれていると思われます。今こそ、デザインが持つ力を発揮する時ではないでしょうか。
難しい令和4年度ですが、4月1日の入社式では各社トップからどんな訓辞を聴くことができるのでしょう。
(聖生清重)