FISPA便り「DP提訴と安泰ニットの25年」

 日本の繊維産業は、明治時代の近代化、戦後復興の時代の輸出産業として大活躍した歴史があります。あの沖縄返還でも「糸を売って(対米繊維品の輸出自主規制)、縄を買った(沖縄返還)」と言われるほどでした。輸出産業だった繊維産業は、外貨獲得産業として日本の国家に大いに貢献したのです。

 しかし、かつての英国、後の米国、そして日本もそうですが、産業の主役が労働集約型の繊維産業から重厚長大、サービス、金融、ハイテク産業などに移るにつれ、次第に国際競争力を失くし、新興国に主役の座をとって代わられる歴史を経験しました。

 1986年は、日本の繊維産業にとって、歴史的な転換点でした。一貫して黒字を続けてきた繊維貿易が初めて赤字に転じたのです。今や、国内市場に出回る繊維品の9割以上は中国を中心とした海外で生産されたものであることはご承知の通りです。

 古い話を思い出したのは、先月、JFW-IFF展を一回りして、思いがけない企業に再会したからです。大阪に本拠に置き、鳥取県に工場を持つ丸編みメーカー、安泰ニットグループです。日本の繊維貿易が入超に転じた2年後の1988年、日本のニット業界は、韓国産セーターに対して反ダンピング(DP)提訴しました。激増する安値輸入への対抗策でした、その時の日本ニット工業組合連合会の理事長が安泰ニット社長の長塩安之さんでした。

 長塩さんは2年前に故人になられていましたが、明治31年(1898年)創業で115年の歴史を刻む安泰ニットは、昨年も鳥取県に5つ目の工場を新設し健在です。カットソーの年産能力は150万枚です。ダンピング提訴から25年。グローバル競争が激しい中、安泰ニットは、社名のように安泰で、しっかり自社の生きる道を粛々と歩んでいます。

 安泰ニットのブースでは、大坪武彦社長が先頭に立って、来場者に接していました。いただいたパンフレットには「安心・安全で高品質な国内生産を提案します」と記されていました。                

(聖生清重)