FISPA便り「問われる本気度」

   猛暑の夏です。足元のコロナ感染は、またまた、増加に転じていますが、基本的には共存する「ウイズコロナ」の時代に入っているようです。社会経済活動の日常が戻っています。そんなある日、ある事業者団体の幹部と話す機会がありました。話題はファッション業界、企業の当面の課題でした。

   くだんの団体幹部はアパレル企業の出身です。その幹部の話によると、目下の関心は「秋冬物のコストアップ」。素材、製造・加工費、物流費が急騰、円安もあり、秋冬物は値上げせざるを得ないものの、全般的な物価高騰で消費者は価格に敏感になっていて、値上げをどの程度にすべきなのか悩んでいる企業が多いとのことでした。

   一難去って、また一難の繰り返しですが、確かに頭が痛い課題だと思われます。5月以降、各商業施設の衣料品売上高はおおむね好調で、企業によってはコロナ禍前まで回復したところもあると報じられています。ようやく息がつけるようになり、コロナ禍で強いられた不振を取り戻すチャンスの前に立ちふさがる大きな壁にとまどっている光景が想像できます。

 どうしたらよいのか。明らかなコストアップに対しては、適切な値上げは必至で、粛々とそうすべきでしょうが、避けるべきは品質低下を招きかねない無理なコスト削減との考え方では一致しました。同時に短期的な今秋冬物対策と合わせて、かねての課題の解決にも本気で取り組むことが重要だとも。

 経産省の「繊維ビジョン」で方向性は示されています。同ビジョンは、よくできたビジョンだと思いますが、その示す方向のどこをどのように目指すのか。個別企業の判断次第ですが、少なくともアパレル製品を核にしたファッション企業は、まずは、積年の課題とされている過剰生産・仕入れ、セール依存からの脱却にこそ、取り組む必要があるのではないでしょうか。

 積年の課題の解決に本気で取り組む。その結果が、無駄を排除したビジネスモデルの確立につながる。くだんの団体幹部氏の見解です。筆者はかつて、ユニクロ躍進の要因について、米国のファッションビジネスに詳しい専門家から「ユニクロが成功したのは、創業者の柳井正氏がSPA(製造小売業)というビジネスモデルの有効性を信じ、徹底的、かつ継続して実践したからだ」と聞いたことがあります。

 本気で実践した。つまり、ユニクロの成長は柳井さんの本気度にある、との説は説得力があるのではないでしょうか。ようやく戻りつつある日常。個別各社、各業界とも本気度が問われている。       

    (聖生清重)