FISPA便り「三宅一生さんのまんじゅう」

 去る5日に84歳で亡くなった三宅一生さんの独自のクリエーションの成果を各紙の報道で読んで、改めて、その偉大な足跡に思いを馳せました。「服の天才」、「世界的服飾デザイナー」、「世界のイッセイ」などの見出しは、そのまま、三宅さんの業績を象徴的に表現したものですが、洋服の歴史が浅い日本に生まれ、育った三宅さんの世界での活躍は、日本ファッションの世界での地位を一気に世界レベルに高めるとともに、日本における広義のファッション産業の社会的地位も高めました。

 三宅さんのデザインの原点ともいえる「一枚の布」。1本の糸づくりから服づくりまで、手仕事を大事にしながら、最新のテクノロジーとの融合にも取り組みました。代表作の「プリーツプリーズ」はそうして生まれたのだと思います。

 そんな三宅さんの服づくりの根底には、職人魂への敬意があったように思えます。1本の糸、1枚の布、1着の服。それが生まれる過程では、何人もの無名の職人がかかわっています。テクノロジーも同様で、開発の原動力は職人気質の技術者なのではないでしょうか。

 ヨーロッパ発で世紀を超えて生き続ける世界的な著名ブランド製品にはクラフトマンシップが脈々と流れている、と言われることがありますが、「イッセイミヤケ」の服にも、モノづくりに対する、真摯なクラフトマンシップが流れているのではないか、それが生活者の支持を集める理由ではないか、と思っています。

 筆者は、現役の繊維・ファッション記者の時、三宅さんと東レ社長の前田勝之助さんに対談をお願いしたことがあります。お二人とも故人になってしまいましたが、その対談の際、忘れられないエピソードがあります。

 対談が始まる前のちょっとした雑談の際、三宅さんが「まんじゅう」の話をしたのです。どこかに行って食べたまんじゅうが、実にうまかった、といった話だったと記憶しています。それだけのことですが、忘れられないのは、後日、前田さんにお目にかかった時、酒豪の前田さんが、「(対談後)三宅さんが(話題にした)まんじゅうを贈ってくれた」と、実に嬉しそうに話してくれたからです。

 世界的なファッションデザイナーの三宅さんと東レの技術畑出身でハイテクだけでなく手仕事を伴うローテクも大事にした前田さんの対談は、意気投合する場面も多く、内容の濃いものだったのですが、それはそれとして、お二人は「まんじゅう」を通して「職人魂への敬意」という一点でつながったのではないか、と勝手に想像しています。

                       (聖生清重)