FISPA便り「ファッションビジネスの本質」
友人の流通コンサルタントから聞いた話が気になっています。最近、あるアパレル企業トップと懇談した際、そのトップがこんな趣旨の話をしたとのことです。「当社は、もともと百貨店向けの卸売りで起業し、成長してきた会社なので、現在のファッションビジネス業界で主流の売り場を起点にした小売り型ビジネスの展開では苦労が多い」。
この話を聞いて思い出したことがあります。かつて、高収益を誇った製造卸型アパレル企業の社長が、SPA型ビジネスを導入したものの、優秀な社員が期待した働きができなかった、というものです。「卸売り型ビジネス」では優秀でも「小売り型ビジネス」ではそうではなかった、ということでした。
この話を聞いたのは、もう20年以上も前のことですが、一度、身についた体質は、改善しようと努力してもなかなか改善できないようです。個人の生活でも思い当たることは少なくないのではないでしょうか。
コロナ禍ももうすぐ、3年になろうとしています。外出制限、外出自粛により、飲食や旅行をはじめ、多くの産業に打撃を与えてきました。ファッション産業も同様です。しかし、最近は、伊勢丹新宿本店の22年度上期(4-9月)売上高が過去最高を記録した、と報じられる一方、アパレル企業もオンワードホールディングスの22年3-8月期が営業黒字、「バーバリー」事業の終了以来、苦しんできた三陽商会が23年2月期で7期ぶりに営業黒字の見通しになるなど、好転を示す業績発表が相次いできました。
ウクライナ情勢に伴う原燃料価格の高騰や円安によるコストアップという難題に直面していますが、人流の回復は、誰もが歓迎できる状況です。インバウンド需要もにわかに復活への期待が高まっています。
コロナ禍の3年間、SDGs(持続可能な開発目標)への対応、過剰供給の改善といったサプライチェーン全体に関係する潮流への対応はまったなしですが、そうした中で個々の企業は企業ごとに異なると思われる必要な体質改善をどこまで進めたのでしょうか。
伊勢丹新宿本店の好業績の理由に「共感、憧れの店づくり」が挙げられていました。かねて、ファッションの本質は「ワクワク・ドキドキ感」にあるとされています。「共感」、「憧れ」は、ワクワク・ドキドキとの親和性が高い言葉だと思います。
消費者がワクワク・ドキドキする商品をつくり、最適な方法で提供する。そうした営みの過程に「社員の体質改善」がある、と感じた次第です。雌伏の3年を経やがてやってくるポストコロナ時代に向けてのキーワードではないでしょうか。くだんのトップの問題意識はそこをついているように思います。
(聖生清重)