FISPA便り「2068年の人間社会と衣服」

 長年、気になっていて、時々思い出しては「ふーん」としばし、考えこむ予測があります。先日、ある女性ファッションディレクターに会う機会があり、その際、またまた、その予測を思い出しました。

 予測は、SF作家のアイザック・アシモフが1968年に「テキスタイルワールド誌」100周年記念号に特別寄稿したものです。100周年を記念して100年先の2068年の社会を予測したのです。

 アシモフは、大規模な核戦争や太陽の爆発といった極端な仮定項目は排除し、現在の変化を支配している「人口増加と技術の進歩」から100年後を予測しています。この予測の中で、ファッションに関して、ずっと気になっていることは「衣服は、性に強く制約されることがなくなる」との説です。

 「技術の進歩は、男から男の役割だった肉体労働をコンピューター化、自動化が開放する。女から女の役割である生殖を人工生殖が解放する(本人が望むかどうかは別にして)」。だから、「21世紀では、性を特徴づけるという第一の目的として衣服が異なる必要はない」。

 同時にアシモフはこうも予測しています。人口増は、自分自身を囲う空間を減少、もしくは消滅させ、その結果、新しい形の私的生活が生まれ、人々は必要上、無関心になる、と。そして「無関心の時代は、自分の体を絵具皿とし、絵具、プラスチック、繊維、金属など何でも使って毎日、新しい自分自身の絵画を制作するだろう。

このコラムを読んでくださっている諸兄姉は、どう思われますか。いずれにしても、予測は、45年前のものですし、100年も先の予測は、ビジネスには役立たず、いわばちょっとした遊びとして、さて、今年の春夏ファッションシーンで流行った「花柄プリントのパンツルック」は、来春にはどうなるでしょう。

くだんの彼女は、何年もパリコレクションをはじめとする最先端のファッション現場や新しいショップやブランドを見続けてきたプロです。間髪入れず答えてくれた予測は「ほとんど登場しないでしょう。ほんの一握りの人を除いては」でした。

                                       (聖生清重)