FISPA便り「生物に学ぶ繊維」

 今年5月に山形県鶴岡市のベンチャー企業が「クモの糸の繊維」の量産技術を確立したと発表しました。「クモの糸」と言えば、芥川龍之介の短編小説「蜘蛛の糸」の地獄から極楽に這い上がろうとする罪人が蜘蛛の糸をつたうシーンを思い浮かべますが、実際、クモの糸の強度は大変なもののようです。

 「クモの糸」のように、自然界に生息する生物に学んだ技術は「バイオミメティクス」(生物模倣技術)と呼ばれ、各方面で注目されています。刺されると痒いが痛くはない蚊から学んだ「痛くない注射」やクジラの尾ひれをまねた風力発電の羽根、家の天井を自由に移動するヤモリをまねた接着剤などがその好例です。

 夏ごろだったかNHKが、「バイオミメティクス」の最前線を報じていました。それによりますと、「何億年もの歴史を生き抜いてきた生物の数だけ人工物を学ぶことができる」バイオミメティクス。ドイツは3000億円もの国家予算を投じているそうです。これに対して日本は、わずか10億円とのことでした。

 しかし、「バイオミメティクス」は、すでに繊維開発では実績があるのです。日本の、いや世界発と言える、天然の絹と見極めがつかないほどの絹調ポリエステル繊維第一号である東レの「シルック」は、繊維断面を円形でなく、三角形に変えたことが世に出るきっかけになりました。蚕に学ぶことで、繊維の女王と称される絹を人間の手で作り出したのです。

 さらには、アマゾンに生息する「生きた宝石」と呼ばれる、美しいコバルトブルーの羽根を持った蝶の発色に学んで、クラレが「デフォール」、帝人、日産自動車、田中貴金属工業が「モルフォテックス」を開発しました。「モルフォテックス」は、2001年の繊維学会賞に輝いた技術から生まれたものです。

 繊維の開発の歴史は、絹や綿、羊毛、麻などの天然繊維だけでは地球上に住む人類が必要とする繊維をまかないきれないことから「人工的に繊維を作り出す」歴史でした。加えて、より強く、より快適で、より美しい繊維を開発する歴史でもあります。

 蚕など昆虫の遺伝子情報で日本は世界一だそうです。「クモの糸」に続く画期的な新繊維にお目にかかりたいと思います。          

(聖生清重)