FISPA便り「堤清二さんの応接室」
セゾングループを立ち上げた経営者でありながら「辻井喬」というペンネームで「詩人・作家」でもあった堤清二さんが、先月25日に逝去しました。訃報を耳にして、ずいぶん昔のあるシーンを鮮明に思い出しました。記者時代にインタビューした光景です。
池袋の高層ビルにあった西武百貨店の社長室の隣と思われる応接室は、白っぽいシルバー色で統一されていました。重厚感とは無縁で、いかにも光に満ちた近未来的な印象が強烈だったからです。なかなかインタビューには応じてもらえない大物社長であり、一方では思索的な作品を創作している人物ですから、取材とは言え緊張していたに違いありません。その時のインタビューの内容はほとんど覚えていないのですから。
堤さんの経営者としての業績は、西武百貨店、西友を中核とするゼゾングループの売上高を業界首位に引き上げたところに象徴されます。その後、バブル経済の崩壊の中で拡大路線が破たんしたことはご承知の通りです。しかし、堤さんが種を蒔き、育てた事業は、代表的なファッションビルである「パルコ」、海外市場にも広がる「無印良品」ともファッション業界で確かな存在感を発揮しています。応接室の近未来性が暗示していたかのように、時代の先を読んで、果敢に手を打った結果、高級ホテル事業などからは撤退を余儀なくされましたが、残るべき事業は残り、しっかり育っています。
思えば、百貨店という業態の会社は、日本では古くからの上場会社です。しかし、古い歴史がありながら、百貨店各社から百貨店以外の新事業が生まれ、それが上場会社になることはありませんでした。それが、高級感と文化性を持った百貨店という資本の本質なのかも知れませんが、何故、子会社の中から上場会社が生まれなかったのでしょうか。ちょっと不思議な気がします。
それだけに、「パルコ」、「無印良品」にみられる堤さんの“創業者”としての業績が光ります。それにしても、辻井喬さんは堤清二さんをどのように評価していたのでしょう。
(聖生清重)