FISPA便り「四季の味と人生の塩味」
「和食」が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録されました。四季や地理的な多様性による新鮮な山海の幸。正月や田植えなどとの密接な関係」などが認められたものです。
四季の味と言えば、「春の苦み・夏の酸味・秋の甘味・冬の辛味」がその代表だそうです。
春。寒かった冬を乗り切り、待ち望んだ春がやってきました。木々の芽が芽吹き、野原では空色のオオイヌノフグリを先頭に、緑色の草花が次と顔を出します。そんな中で古来、人々は山野草を摘まんで食卓にのせます。春の七草は、あまりにも有名ですが、“山菜名人”によりますと、毒草以外の草や木の若芽はほとんどが食べられるそうです。その味の代表は山野草につきものの「苦み」。
夏。草木が猛烈に繁茂する季節。人々は、山に海に、と繰り出します。生物という生物が活発に活動し、汗をかき、生長します。夏の花を代表するヒマワリはいかにも生命力にあふれ、ぎらぎらと照りつける陽光を全身で浴びて生き生きとしています。人間は、“熱い夏”にいささか閉口ですが、その味の代表は「酸味」。汗にはすっぱいレモンがよく似合いますよね。
秋。収穫の季節。青空の下での運動会が終わると、木々の葉が赤や黄色に色づきます。刈り入れを終えた田んぼがある郊外の農家の庭先の柿の木ではオレンジ色の柿が輝いています。北国では、あちこちで真っ赤なリンゴが道行く人の目を楽しませてくれます。まさに実りの秋。収穫の秋の味は「甘味」です。
冬。季節は巡り、今年もまた、寒い冬の季節になりました。「暑い、暑い」と言っていた日々がつい昨日のような気がします。霜が降りて真っ白な大地。寒気を突き刺すように吐く息も真っ白です。そんな一夜、湯気が立ち昇る鍋はまことにいいですね。鍋の友には、辛い大根おろしがマッチします。冬の味は「辛味」。
そして、人生の味です。もう「塩味」しかありません。料理にとって、何はなくても「塩味」は必要です。入れすぎるとしょっぱいだけ。少ないと気が抜けた味ですが、適量だと料理の味をぐんと引き立ててくれます。さてさて「私の人生にとっての塩味は、薄すぎるのか、濃すぎるのか」。今宵は、鍋を友に「私の塩加減」をじっくり測ってみることにしよう。「渋み」もあればいいな、と考えながら。
(聖生清重)