FISPA便り「イノベーションで一国の繁栄を」

 去る1月末に、旭化成、帝人、東洋紡の素材大手3社が相次いで新年度からの社長交代を発表しました。各社によって、交代の理由は異なりますが、共通項は「前社長がデフレ不況下で構造改革に一定のメドを付けたのを機に、今後の成長戦略を新社長に託す構図」です。そんな中で、過去最高益を手中にしている旭化成が実力会長に人事権があった古いガバナンスからすっきりした「ワントップ体制」へと脱却する決意を形にしたことは、一足早く春がやってきたような爽快感を感じさせます。

 アベノミクスによって、脱デフレが視野に入ってきたように見える日本経済。そのカギが成長戦略にあることは間違いないでしょう。新社長には、新年度から思う存分、手腕を発揮してもらいたいものです。そこで、興味深いことは、祖業である繊維事業の収益体質をどう確立するかです。旭化成の社長・会長として、旭化成を「延岡の繊維会社」から「東京の総合化学会社」に育て上げた、故・宮崎輝さんが「本業を大事にしない多角化は成功しない」と常々話していたことが忘れられないからです。

 一方、今年の6月には、東レの榊原定征会長が経団連会長に就任します。東レ及び繊維会社出身の会長は初めてです。榊原会長は、航空機の構造材に使用される炭素繊維を世界トップシェアに高めた実績が高く評価されていますが、同時に繊維事業も高収益事業に育て上げました。

 榊原さんは、社長に就任した際「イノベーション」を基本方針に掲げ、コスト削減、コア事業の成長を加速させました。「イノベーション・ケミストリー」は、いまでも東レのスローガンになっています。アベノミクスの成長戦略にとっても、イノベーションは最重要なテーマでしょう。

 「一国の繁栄は、その国の優れた生産力にかかっている」。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称えられた80年代。日本との競争に負けた米国が製造業復活の青写真を複数のノーベル賞受賞者を含む「MIT産業生産性調査委員会」に描いてもらいました。その報告書「メード・イン・アメリカ」の前文に書かれている一説です。

 イノベーションで製造業が元気になる日。日本経済が本格的な成長軌道に乗る日なのでしょう。                     

                                       (聖生清重)