FISPA便り「繊維輸出100億ドルは夢か」

 1月末から2月にかけては、過ぎ去った1年間の各種統計が発表されます。繊維ファッション産業も同様で、生産や消費、貿易などの実態が数字で示されます。そんな統計で、さて、今年こそは、と期待していたのが繊維品輸出の「100億ドル突破」でした。アベノミクス以降の円安が効果を発揮して、2012年に96億ドルを記録した繊維品輸出が、2013年には100億ドルの大台に乗るのかどうか。結果は、残念なものでした。

 日本繊維輸出組合の統計によりますと、昨年1年間の日本の繊維品輸出額は85億4900万ドルで前年比11.0%減少しました。当初は、円安効果が1年間発現することから、待望の100億ドルを超えることが期待されていましたが、逆にマイナスに転じてしまいました。何故か。専門家によると、繊維輸出の主力である中国など東アジア向け暫八(加工再輸入減税制度)利用のテキスタイル輸出が振るわなかったことが主因です。

 通常、持ち帰り輸出と称される「委託加工用輸出」が減少した背景には、中国でのOEM製品生産のコストが円安で上昇したことがあげられます。商社などOEMを手掛ける業者は、円安によるコスト上昇を削減するため、製品の使用原材料を日本からの輸出から中国現地での調達に切り替えていると見られます。現地生産のテキスタイルの品質が向上していることも、現地素材を活用する動きを助長していると見られます。

 円安は、輸出にとって好環境ですが、一方、製品輸入にとってはコストアップの要因ですから、現下の円安はテキスタイル貿易には、不利に働いていることになります。しかも、この背景には中国テキスタイルの品質向上があることからすれば、暫八輸出の縮小は構造的なものだということになります。

 今年の繊維品輸出でも、こうした傾向が続きそうで100億ドルは夢に終わりそうな状況です。しかし、サイジングに優れた経糸を使用した高密度織物や中国では作れない原料綿、ナイロン糸などの輸出は堅調です。すでに指摘されていることですが、日本独自の高付加価値品の輸出努力を続けることが一段と求められています。                    

 (聖生清重)