FISPA便り「タイの政治対立と1票の重さ」

 日本ファッション協会はこのほど、アジアファッション連合会(AFF)日本委員会(委員長・平井克彦東レ相談役)を開き、「最近のタイ情勢と日タイ関係―タイの政治・外交、経済概況、投資環境、および日タイ関係について―」を勉強しました。

 講師の日本貿易振興機構海外調査部アジア大洋州課長の若松勇さんは、詳細なデータを駆使して、タイ情勢と日タイ関係をわかりやすく説き起こしてくれました。「今年の経済成長率は3.0%下回る可能性がある」ものの、「日系企業の高水準の投資は続いている」、「FTA(自由貿易協定)の中心地になっている」、「インドシナ半島に東西、南北回廊がめぐらされたことで、タイの素材をカンボジアに持ち込んで靴を生産し、ベトナムから日本に輸出することが行われている」、「所得水準世帯割合では下位中間層と上位中間層の比率が2006年の34.8%から2011年には48.0%に上昇した」ことで、消費国としての魅力を増しているなどと話しました。

 興味深かったのは「イタイイタイ病」のことです。公害病のそれではありません。タイに赴任した日本人ビジネスパーソンが帰国をうながされても「もっとタイに居たい」と希望する“病”のことです。筆者も「定年後はタイに住みたい」と希望し、実際、そうしている人がいることは知っていますが、この「イタイイタイ病」は、より“深刻”になっているようです。投資環境の良さに加えたタイの魅力ですが。

 さて、問題はタクシン派と反タクシン派の対立です。若松さんは「亀裂は容易には解消されないが、それでもタイの民主主義は発展している」と分析してくれました。考えされられたことがあります。反タクシン派が理想とする「国王を真の元首に、良い人が治め、選挙で選ばれた政治家以外の国民の代表も参加する政治」のことです。この背景には「エリート層と低所得者が同じ1票なのはおかしい」との意識が見え隠れします。日本でも1票の格差が問題になっていますが、一人一票の考えに異を唱える人はいないでしょう、ね。

(聖生清重)