FISPA便り「『AFFタイ・バンコク大会』から④ 東レ、グローバル・オペレーションの現場

 AFF大会では、公式行事の一方で開催都市の生活文化を視察することが慣例です。今回のタイ大会では、公式行事のひとつに王妃の衣装を展示している「テキスタイル博物館」の見学が組み込まれましたが、当日はバンコクから南へ約40kmに立地する東レの海外工場のひとつであるラッキーテックス社を見学しました。

 ラッキーテックスは、紡績から織布、染色加工までを行う一貫工場で、3つの工場で働く従業員は約2900人。設立は1960年で東レが経営に参画したのは42年前の1972年です。タイの株式市場にも上場しています。ポリエステル・綿棍織物、デニム、スパンポリエステル織物、エアバッグ用織物などを生産しています。エアバッグは、単一工場としては世界一だそうです。最近、バンコクで観光客に人気の布製バッグなどを販売するショップ「ナラヤ」の袋物用のナイロン生地もラッキーテックス社の製品だそうです。

 工場内は、先が見えないほど広いスペースで高速織機がうなりをあげていました。圧巻です。しかし、それ以上に意外だと思われるのはデニムの生産です。東レと言えば合繊メーカーですし、化学会社のイメージでしょう。ところが、ラッキーテックスはデニムも1974年から紡績から染め、織布まで一貫生産しているのです。

 AFF日本委員長であり、東レの相談役である平井克彦さんに、その辺を解説していただきました。東レの繊維事業は、東レの基幹事業で、連結ベースで売り上げの約40%、営業利益の50%以上を占めています。この数字には、航空機などに使われる炭素繊維は含まれていません。こうした高収益の源はアセアンに張り巡らされた生産力を活用するグローバルなサプライチェーンにあります。しかも、必要に応じて縫製品でも対応できることが強みです。ユニクロの保温下着「ヒートテック」がその好例です。

 先進国における繊維産業は、欧米がそうだったように衰退が免れないとされています。世界の繊維産業の中心は、英国から米国、日本へ、そして中国へと移動してきました。しかし、東レはグローバルにサプライチェーンを形成することで歴史の定説を覆しています。ラッキーテックスのデニムはその象徴なのです。                           

(聖生清重)