1.合理的な価格決定のための取組み

○ 消費者が求める品質・価格でものづくりを行い、繊維業界全体としての競争力を高めるためには、各工程において取引数量、納期、品質等の条件、原材料費、 労務費、エネルギーコスト、物流費等について関係者で協議をした上で、合理的な価格決定が行われることが不可欠である。しかしながら、各事業者間の取引においては、歩引きや理由なき返品、受領拒否等の非合理な取引により、負担が偏っている場合がある。そのため、下請振興法第3条第1項の規定に基づく振興基準やガイドライン「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」等を踏まえ、 取引先と十分に適正な利益配分並びに非合理な取引を排除すべく協議を行った上、適正に価格を決定する。

○ 発注者は、発注工賃をはじめとする取引条件について、個人事業主を含む受注者(以下、「受注者」という。)に付加価値に応じて適正に利益が配分され、従業員(外国人技能実習生を含む。)の適正な賃金・労働環境、事業の持続可能性等を確保することができる水準となるよう十分考慮した上で、受注者と適正な発注 工賃等の取引条件について協議を行った上で、適正に価格を決定する。
また、発注者は受注者からの要請の有無にかかわらず、原材料費、エネルギーコスト、物流費の上昇や最低賃金の引上げによる労務費の増加といった、原価の増加による取引対価の見直しについて要請があった場合、上記と同様に、受注者の適正な賃金・労働環境、事業の持続可能性の確保を十分に考慮し、受注者と十分に協議を行った上、適正に価格を決定する。

〇 発注者は、生産に必要なリードタイムを考慮し、受注者と十分に協議を行った上で取引価格等を決定する。

 

(実施事項)

以下の点を遵守し、「責任あるサプライチェーン」に係る国際的な潮流を踏まえつつ、合理的な価格決定のための取組みを行う。

  • 両団体は、合理的な価格決定のための取組みを進めるため、繊維産業流通構造改革推進協議会(以下、「SCM推進協議会」という。)が定めるTAプロジェクト取引ガイドラ イン(以下、「TAガイドライン」という。)について、必要な改定と関係各社向け説明会を開催する。改定内容は、更なる取引適正化を進めるため、取引要件かサービス業務なのかの区分を明確にすること、引取義務の徹底、サンプル作成にかかわる費用負担、発注者の都合により発生する業務上の費用等に関する事項についてである。
  • SCM推進協議会が行った「歩引き」取引廃止宣言と理念を踏まえ、歩引き取引の廃止に向けて、両団体に所属する法人企業及び団体に所属している企業 (以下、「会員企業」という。)は、自らの取引先と協議し取引適正化を行う。
  • 取引に係る数量、納期、価格等の条件について、当該事業者間での責任の明確化が図られるよう、取引先と十分に協議を行った上で、契約書等の書面化を徹底する。
  • 発注者は経済情勢の大きな変化や原材料費、エネルギーコスト、物流費の上昇、人手不足、最低賃金の引上げによる労務費の増加等に伴う取引対価をはじめとする取引条件の見直しについて、受注者からの要請の有無にかかわらずこれらの影響を勘案し、積極的に価格転嫁に向けた協議の場を設け、事業者間で十分に協議を行った上で取引価格等を決定する。
  • 適切な取引対価の決定にあたっては、①「労務費の適正な転嫁のための価格交渉に関する指針」に沿った行動を適切に取り、②原材料費やエネルギーコスト、物流費の高騰があった場合には、適切なコスト増加分の全額転嫁を目指して取引対価を決定する。
  • 発注者は仕入価格の低減要請を行う際は、その根拠を明確にし、受注者と十分協議を行う。
  • 発注者は仕入価格の低減要請を行うに際して、文書や記録を残さずに口頭で 数値目標のみを提示しての要請、原価低減の根拠やアイデアを受注者に丸投げするような要請、発注継続の前提を示唆した要請は、下請振興法に基づく振興基準において親事業者が留意すべき事項とされており、客観的な経済合理性や 十分な協議手続きを欠く要請を行わないことを徹底する。
  • 発注者は原価低減活動の効果を十分に確認して取引価格に反映させる。また、受注者の貢献がある場合は、その貢献度も踏まえて取引価格を決定することとし、受注者の努力によるコスト削減効果を一方的に取引価格に反映することは行わないことを徹底する。
  • 受注者は価格交渉を行う際、事前に見積もりを作成して提示し価格交渉を行う。縫製については「縫製工賃交渉支援クラウドサービス」(ACCTシステム)等を活用する。
  • 発注者は、通常必要な生産リードタイムを確保できない短納期発注等を行う場合、労務費や物流費等、発生する追加費用等について発注側が適正に負担するなど、円滑な価格転嫁が行えるよう努める。

2.コスト負担の適正化のための取組み

○ 繊維産業では、季節ごとに新たな商品展開が行われるため、受注者に対する厳しい納期が求められ、指定納期に指定場所へ納品するため、完成品を受注者が保管するという倉庫機能を負わされるケースがある。また、気候の変化等に応じた追加発注等に対する生地在庫の確保等による倉庫管理等の負担も生じている。 これらのコスト負担は、一方的に受注者が負担するべきものではなく、川上から川下までの繊維産業のサプライチェーンを構成する各社が相応に負担すべき 管理コストであることから在庫の平準化に努め、コスト負担の適正化・改善に取り組んでいく。発注者(特に大企業)は、自身の働き方改革による受注者へのしわ寄せ等の影響がないよう、受注者の働き方改革を阻害し、不利益となる取引や要請は行わないよう努める。

 

(実施事項)

以下の点を遵守し、取引企業間での管理コスト負担の適正化・改善に取り組む。

  • SCM推進協議会は、管理コスト負担の適正化・改善を進めるため、TAガイドラインの必要な改定を行うとともに、関係各社向けの説明会を開催する。
  • 会員企業は、引取期日を過ぎた在庫保管等に対するコスト負担について、TAガイドラインを遵守し、適正なコスト負担について関係する事業者間で協議を行った上で取り決める。
  • 取引に係る数量、納期、価格等の条件について、当該事業者間での責任の明確化が図られるよう、取引先と十分に協議を行った上で、契約書等の書面化を徹底する(再掲)。
  • 完成品の引取り時期の未確定や追加発注に備えた材料確保による倉庫の負担、補給品等の追加発注による新たな生産コストの発生等の可能性がある取引に関しては、在庫の確保等に関する期限を定めるなど、受注者に過度な負担が 生じないよう、十分に協議を行った上で取り決める。
  • 自己都合による理由なき返品、製造委託した商品の受領拒否、及び不当な販売員や協賛金等の経済上の利益の提供要請など、一方的に受注者に対してコスト負担を強いることがないよう、徹底する。
  • ・発注者は、自らの取引に起因して受注者が労使協定を超える時間外労働や休日労働などによる長時間労働、これらに伴う割増賃金未払いなど、労働基準関係法令に違反することがないよう十分配慮する。また、やむを得ず短納期又は追加の発注、追加の仕様変更などを行なう場合には、発注者が適正なコストを負担する。

3.支払条件の改善のための取組み

○ 令和3年3月31日付通達「下請代金の支払手段について」において、発注者による下請代金の支払いについて、①下請代金の支払いは出来る限り現金によるものとする、②手形等により下請代金を支払う場合においては、現金化にかかる割引料のコストが受注者の負担にならないよう、これを勘案した下請代金の額を発注者と受注者が十分協議し決定する、③発注代金の支払いサイトは60日以内とする、とされていることから、可能な限り速やかに実施する。

○ 令和6(2024)年4月30日付通達(20240423中庁第4号・公取企第153号)「手形等のサイトの短縮への対応について」において、令和6年11月1日以降に下請事業者に対し60日を超えるサイトの手形等が交付された場合、下請法の「割引困難な手形」に該当するおそれがあるものとする新たな指導基準に基づき対応することになるため、サプライチェーン全体でのサイト短縮に取り組む。

〇 会員企業、特に大企業は、本通達の主旨を尊重し、率先して取り組むとともに、下請法対象外の取引や業種間をまたぐ取引においても実施し、サプライチェーン全体での取り組みを進める。

 

(実施事項)

以下の点を念頭に、下請代金の支払方法の改善を進める。

  • 下請代金の支払いを出来る限り現金払いとするよう努める。
  • 下請代金の支払いは、発注にかかる物品等の受領した日(以下「受領日」という)から起算して60日以内に定める支払期日までに支払うこととし、受領日から60日を超える支払日となる「期日指定現金」での支払いは行わない。
  • 下請代金の支払いを手形等で支払う場合は支払いサイトを60日以内とする。
  • 現金払いが難しい場合、「約束手形」は電子記録債権に移行し、令和8(2026)年までに約束手形の廃止に向けて取り組む。
  • 両団体に加盟している団体(以下、「加盟団体」という)は約束手形の利用廃止に向けて、主要な会員企業の経営陣に直接働きかけるなど、会員企業における支払の現金化、または電子決済手段への移行を促進するとともに、受け取り側としても対応が出来るように努める。
  • 発注者は、手形等により下請代金を支払う場合、支払期日に現金により支払う場合の下請代金の額並びに支払い期日に手形等により支払う場合の下請代金の額及び当該手形等の現金化にかかる割引料等のコストを注文書等で示すよう努める。
  • 手形等の支払いサイトは、下請法対象の取引であるか否かを問わず、 60日以内を目標として短縮化に努める。
  • 会員企業は、前述の取り組みを繊維業界内の企業間取引から進め、関連する他業界等の環境の整備状況、進捗状況等を勘案した上で、他業界にも対象範囲を広げていく。
  • 自社が約束手形の利用廃止に向けて取り組む過程で、自社の売り上げ先(販売先)からの入金時期と発注先(仕入先)への支払時期のずれに起因する資金繰りの問題に対応するため、発注先(仕入先)に対し一方的な値下げ要求等をしない。

4.知的財産の取扱いについて

○ 発注者及び受注者は、特許権、著作権等知的財産権や営業秘密等知的財産(以下「知的財産等」という。) に係る取引の適正化のため、振興基準に定める内容のほか、「知的財産取引の適正化について」(令和3年3月31日付け20210319中庁第6号)に基づき、取引を行うものとする。

 

  (実施事項)

以下の点も念頭に取引を進める。

  • 発注者及び受注者は、知的財産等の取り扱いに関して、契約書の締結及び契約内容の明確化に努める。
  • 発注者は、契約上知り得た受注者の知的財産権等の取扱いに関して、受注者に損失を与えることのないよう、十分な配慮を行う。
  • 発注者は、受注者に対して秘密情報の提供や開示を強要してはならない。また、契約上知り得た受注者の知的財産等について無断で使用してはならない。
  • 受注者は、自己の所有する知的財産について、特許権、著作権等権利の取得、機密保持契約による営業秘密化等により、管理保護に努める。

5.検査基準の取り決めについて

○ 品質基準、検査基準については、お互いの責任範囲を含め、事前に発注者、受注者双方で十分に協議を行う。

 

(実施事項)

  • 発注者は事前に自社で設定している品質基準、検査基準等を明示したうえで、お互いの責任範囲等を含めて十分に協議を行う。

6.取引上の問題を申し出しやすい環境の整備

○ 受注者は、取引上の不満や問題があったとしても、取引への影響を考慮すると発注者に申し入れが出来ない場合がある。これを防ぐために、発注者(特に、大企業)は、受注者が不満や問題について申し入れが出来るよう、環境の整備に努める。

 

(実施事項)

   以下の点を念頭に、発注者は環境を整備する。

  • 発注者は、政府が実施する価格交渉促進月間に限らず受注者による価格交渉等の協議申し出があった場合には、遅滞なくこれに応じるものとするほか、調達部署とは異なる第三者的立場の相談窓口を設置する等受注者が申し入れをし易い環境整備を行い、寄せられた情報については、匿名性を確保しつつ、全ての受注者との間で共有するよう努める。

7.パートナーシップ構築宣言の促進(新規追加)

○ 会員企業は、パートナーシップ構築宣言の主旨を理解し、積極的に取り組みを進める。

 

(実施事項)

  • 会員企業の代表者宛に加盟団体長の名で要請文を発出するなど、会員企業におけるパートナーシップ構築宣言の実施を促進することに努める。
  • 既に宣言している企業については、新しいひな型での宣言の更新を行う。