FISPA便り「大村さんのノーベル賞と『土』」
今年も日本人がノーベル賞を受賞しました。嬉しくも誇らしい気持ちになった朗報です。なかでも、ノーベル生理学・医学賞の北里大学特別栄誉教授の大村智さんの人柄をニュースで知って、さわやかな秋晴れのような気分になりました。にこやかな笑み、率直な物言い、飄々とした雰囲気、秘めた情熱を感じさせられたからです。
大村発言では「世のため、人のため」と「(愛妻)への感謝」の弁に清々しさを覚えました。しかも、「土」に生きる農家の出であること。筆者は、かねて農業従事者は、百姓ではなくて「百匠」だと思っているので、「土」に生きる微生物の研究が大輪の花を咲かせたことは、とりわけ農耕民族である日本人が自らの出自に自信を持つことができる快挙だと思います。
土に生きる「百姓」は、実は、天候を読む気象学に加えて、肥料ではバイオテクノロジー、水路づくりでは土木工学、農機の修理では機械工学を駆使する「百」の「匠」、つまり「百匠」だと言われることがありますが、実際、そうだと思います。だからこそ、大村さんのノーベル賞には、特段の嬉しさを覚えたのです。
ノーベル賞と言えば、ノーベル賞を獲るような発明・発見を行う人間の資質について、以前(2012年12月26日配信)、このコラムで書いたことがあります。必要な資質は①知能度が高い②他人と違うことをしても恐れない③執念深く自分の意見を変えない④人を説得する能力の4つ。ところが、この資質は心理学的には①はともかく、②は分裂症③は偏執症④躁鬱症の傾向があるのだそうです。
それはそれとして、大村さんからはそうした資質を超えた何か、を感じさせられました。「世のため、人のため」という、一歩間違うと、胡散臭さがぬぐえない巧言も素直に受け入れることもできました。それは大村さんの業績から「土」の恵みを感じることができるたからではないか、と思っています。
(聖生清重)