FISPA便り「東北の底力」

東北には、発見と驚きがある 

 「見てよかった。もう一度、見たい」。心底そう思えた展覧会でした。去る7月26日から31日までの7日間、東京・六本木の「21-21デザインサイト」で開かれた「東北の底力、心と光。『衣』、三宅一生」展のことです。「私たちのチームと仕事を通じて共に努力し、親しくしていただいた産地工場の方々も助け合いながら大きな困難と闘っています。そうした方々にエールを送りたい」との三宅さんの意向から実現した展覧会は、東北に存在する東北ならではの素材と技法が衣服デザインによって世界の人々を魅了する作品に完結する“人間の物語”が展示されていて、来場者に熱い感動を与えました。 

和紙、シナ布、こぎん刺し、裂織、ホームスパン、草木染め、ニット、プリーツ。東北の厳しい自然から生まれる素材が根気のいる仕事を通して衣服素材になり、衣服デザイナーの創造力によって、美しく、こころがほかほかするような服になる。世界的なコレクション作品が誕生するまでの関係者の営みを実物で見て、改めて東北の素材力とデザインのチカラの素晴らしさを痛感しました。 

三宅さんは、展覧会場入り口の壁に掛けた展覧会の企画趣旨でこう述べていました。「『東北の底力、心と光。』のタイトルに込めた思いを一言で言えば『伝統』。古いだけ、形だけでなく、根底に革新と再生の心をもち、粘り強く研究し、重ねて新しい光と価値を創り出してゆくのが本来の『伝統』です」。大きな困難に立ち向かっている東北の人々への、あたたかくも力強いエールは、希望の光に乗って確実に届いたことでしょう。 

同展は、日ごろは裏方に徹して表にでることの少ない素材づくりにいそしむ人々やプリーツした布で服をつくるのではなく、服をつくってからプリーツすることで完成した「プリーツプリーズ・イッセイミヤケ」の加工工場との協働の実態なども公開されました。地味な作業の繰り返しだと思われるものづくりの現場に光を当てた意味でも好企画だったと思います。もう一言、三宅さんによる企画趣旨の出だしを紹介しましょう。

「東北には、発見と驚きがあります」。発見と驚きの旅に出かけたくなります。

(聖生清重)