FISPA便り「持つべきものは趣味」

夏の旅行計画がニュースになる7月に入った先日、東京・銀座の文芸春秋画廊「ザ・セラー」で小さな展覧会が開かれました。「サロンドクレール」と呼ぶ美術グループが解散したのに伴い、メンバー有志が開いたものです。

この展覧会の招待状の差出人は、元ダイドーリミテッド社長の羽鳥嘉彌さん。久しぶりに会いたくなって画廊に出かけました。当年とって87歳の羽鳥さんは、果たしてお元気なのだろうか、今でも絵筆をにぎっているのだろうか、現役引退後の第二の人生をどのように過ごしているのだろうか。

展示されていた水彩画は、甲斐駒ケ岳、八ヶ岳遠望など4点。元々、水彩画を趣味とする羽鳥さんはこれまでにもグループ展や個展を開き、絵に文章を添えた画文集も自費出版するほどの腕前ですが、今回の展示作品も日本の自然を透明感が漂う筆致でやさしく描いているものでした。若き日に登った山々。いまでは「観望登山」しかできませんが、大自然に美と同時に畏敬の念を抱いた青春の日々を思い出しながら筆を走らせたのでしょうか。

昼食をとりながら歓談させていただきました。羽鳥さんは「今年の夏は、南アルプスの女王と言われる仙丈岳を描こうと思っています。カール(圏谷)が見えるスケッチの適地はどこでしょうね」と目を輝かせていました。

山梨県清里高原で八ヶ岳を描こうとうろついていた際、「窪地に足をとられ、けがをするところでした」とのエピソードを苦笑まじりで話していましたが、スケッチ紀行を聞きながら思ったことは人間にとって、特に引退後の人生を生きる上で何らかの趣味を持つことの素晴らしさでした。

おそらく還暦を迎えたり、高齢者や後期高齢者の仲間入りした時など、多くの方が「老後の趣味」に思いを馳せるのではないでしょうか。羽鳥さんとの会話を通じて、改めてそんなことを考えました。ちなみに、羽鳥さんは囲碁の腕前も相当なもので、今でも好敵手との盤上の戦いを楽しんでいるそうです。

                              (聖生清重)