FISPA便り「データと足で読み解く流通最新事情」

 去る5月26日に開かれたファッション産業人材育成機構(IFI)の繊維ファッションビジネス研究会で登壇した飯嶋薫㈱RBKリテールビジネス研究所代表取締役の講演は、ファッション業界にとってはアゲンストなものでしたが、内容は十分に納得できるものでした。理由は、豊富なデータに加えて、自らの足と口と買い物と人脈をフルに動員して分析しているからです。

 講演のテーマは「商業施設激変の流れとマーケットの流れ」。商業施設ごとの売上高、営業面積、月坪効率、SC(ショッピングセンター)開業年代別業種構成比などを示しながら、飯嶋さんが指摘した商業施設の流れのポイントは①業態の際がなくなる「SCの時代へ」②eコマース台頭、協業の時代へ③地域間、地域内競争激化、でした。

 勝ち組のルミネ、三井不動産の戦略、ルクアイーレ、岡山イオンモールの現状にも触れましたが、①の指摘は、売上高が右肩下がりの百貨店の多くやGMSがファストファッションや紳士服専門店を導入するなど、SC化している現状が証明しています。業態の際がなくなり、多くの商業施設がSC化する。飯嶋さんは「百貨店は高コスト構造の改革に迫られている。GMSも単独では生き残れない」と指摘しました。こうした流れの中で百貨店、GMSのSC化の流れはさらに加速しそうです。 

 マーケットの流れで飯嶋さんは「ファッションが主役でなくなる時代」に入ったと強調しました。ビューティ、カフェ、食品、スィーツ、ベーカリー、雑貨、エクスペリエンス(仕事体験、貸し農園など)が消費者の関心を集め、入り口にベーカリーを置く商業施設が増えているとのことです。

 「ファッションが主役でなくなる」。繊維ファッション産業には、由々しき流れですが、飯嶋さんが配布した資料のSC、駅ビル、地下街の商業施設の開業年代別業種構成比を見ると、ファッションの構成比が低下する一方、ファッション雑貨、生活雑貨、食品などの構成比が高まっています。

 飯嶋さんは、講演の最後につぶやくようにこう述べました。「(私は)歩きまくり、食べまくり、買いまくり、人に会いまくっています」。時代と産業の変化を捉えるにあったってデータ頼りにしない。だからこそ説得力のある分析と予測が可能になるのでしょう。もう一つ付言すれば、講演後の雑談で飯嶋さんはファッションが商業施設で重要な業態であることに変わりはないと話していました。                      

(聖生清重)