FISPA便り「川久保玲さんの檄」

 2012年が明けました。繊維ファッション業界でも、恒例の賀詞交換会が開かれました。毎年のことですが、今年もそのいくつかに出かけました。会場の雰囲気を身体で感じながら、お世話になっている方々に新年のごあいさつを申し上げ、同時に今年の繊維ファッション業界の見通しなどをお伺いする貴重な機会だからです。

 今年の賀詞交換会の雰囲気は、言わば「落ち着いた平常」といった空気が流れていたように感じました。超円高、電力不足、EUの債務危機、新興国経済の減速、世界主要国の首長の交代など気になる問題が山積していますが、繊維ファッション産業の現況は、好況に沸く状況ではなく、さりとて業績悪化の企業が続出するほどの不況でもなし、といった「可もなく不可もなし」の状況を反映してのことでしょう。

 そんな2012年の年頭に当たって、実に強烈なメッセージに出合いました。朝日新聞の1月7日付けに1ページにわたって掲載されたファッションデザイナー、川久保玲さんのインタビュー記事です。お読みになった方も多いと思いますが、川久保さんの主張は「落ち着いた平常」なり「可もなく不可もなし」の状況にある者を覚醒させる力があるものでした。

 「ここ5年ほどは業界はすっかり内向きになってしまった。変化を求める気持ちも弱くなってしまった。そんな流れの中で、私は『どこかで見たことがあるようなものはダメ』と自分を懸命に追い込んできました」、「まずは身一つで世界に飛び出して、道ばたでもいいから作品をみせること。世界の人に見てもらうだけでも緊張するし、自分にハッパをかけられる」。

 「日本の織り、染め、縫製などの職人と協力するためのデザインやシステムを考えることで世界に発信できる」とも語る川久保さんの発言は、なかなか内向き志向から抜け出せない繊維ファッション業界に対する“檄”のようです。

「目覚めよ!そして挑戦せよ!」との川久保さんの檄は、叫びのようにも聞こえます。

 

(聖生清重)