FISPA便り「馬場さんの引退で思うこと」

 繊維ファッションSCM推進協議会(FISPA)の会長が馬場彰さんからオンワード樫山会長の大澤道雄さんに交代しました。11日に開催した総会で決まったものですが、引退に際して、さて、何を書こうか。馬場さんには多くの思い出がありすぎて、それらが次々と浮かんできて、何を書いたらよいのか、パソコンに向かった今もなかなか頭の中がまとまりません。

 馬場さんのSCMにおける功績は、かつて、暗黒大陸と揶揄された繊維ファッション業界の悪しき取引慣行に対して、取引ガイドラインを制定して、適正取引を軌道に乗せたことに代表されるでしょう。最近では、旧弊である歩引きの全廃にも成果をあげています。

   平成15年5月に発足した「経営トップ合同会議」が、そうした取引改革の推進役ですが、馬場さんの馬場さんらしさは、その会議をマスコミに開放したところにあると思います。マスコミが聞き耳を立てている会議です。そこで決まったことは、参加企業が責任をもって実行する、というめずらしい会議は、SCMの特徴であり、活動の不滅の遺産になるでしょう。

  馬場さんのオンワード樫山の経営、アパレルファッション業界への貢献は日経新聞の私の履歴書に詳しいので省きますが、筆者が書き残しておきたいことは、馬場さんの「強さと優しさ」についてです。オンワード時代の部下は、誰もが「馬場さんは怖かった」と言います。怒られると震えた、という人もいます。実際、そうなのでしょう。そうでなければオンワードをアパレル業界のリーディング企業に育てることはできなかったでしょう。

  しかし、「怖い」だけでなく、実は人情味にあふれた「情の人」なのです。端的な例が、趣味である映画や読書の傾向です。例えば、以前、このコラムで書きましたが、馬場さんに紹介された本は、涙をこらえながら読んだ記憶があります。ある部下は、馬場さんを「しょうがない、がない人」と評しました。予算未達でこっぴどく怒られたからです。言い訳無用。怖かったそうです。それでも、ほとんどの部下は、馬場さんを慕っていました。根底に「情」があるからだと思います。

  「強くなければ生きてゆけない。優しくなければ生きる資格がない」。作家のレイモンド・チャンドラーが小説の主人公に言わしめたセリフです。座右の銘にしている方もすくなくないでしょう。筆者もひそかにそうありたいと願っています。

  そうなのです。馬場さんの「怖さ」は、実は根っこに「優しさ」がある怖さだと思います。馬場さんを21年にわたって補佐した阿部旭専務理事も今総会で引退しましたが、「強さ」と「優しさ」を誰よりも感じているのではないでしょうか。

 
                         (聖生清重)